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した市民的公共性ともいうべきものの社会的意義は図りしれないものがある。それに加えて、1980年代以降展開されてきた市民運動は、告発、抗議、抵抗にとどまらず、分権、参加、自治を掲げ、積極的に政策を提起し、自ら社会を築いていこうという姿勢を保持しているように思われる。そうした活動は、社会運動的な側面をもちながらも、自らを市民活動として定義し、市民事業などへの進出も視野に入れながら新しい局面を迎えている。

ここでいう市民活動は、自己防衛的な運動にとどまらず、専ら公共性・公益性を問題にし,なんらかの形で社会的機能を果たそうとするものである。より具体的には、高齢化杜会に対応するために、在宅介護を支援するためのホームヘルプサービスを供給したり、配食サービスを展開したりする市民団体が急増している。また、公的な学校教育でカバーしきれない問題を抱えた子どもたちの教育を積極的に担おうとするフリースクールの試みも、そうした例の1つであろう。

ところで、そうした活動の多くは、これまで行政が担う公共サービスとして行われていたものである。「ゆりかごから墓場まで」という福祉国家のスローガンは、大きな政府の下での行政サービスの担い手が政府であることを宣言したものであろう。しかし、ポスト福祉国家への移行に伴う小さな政府への移行と、なにより超高齢化社会の到来は、政府による公共サービスの独占を不可能なものとし、公共サービスの担い手として市民活動を登場させることになった。市民活動を行政との関係において論じる意味はここにある。

ただし、市民活動を行政の下請けと考え、補完的な役割を担わせようというのではない。市民運動が1970年以降、個人を基礎とした主体的な運動として登場してきたことはすでに述べたが、こうした運動の登場を背景として議論されたのが、「新しい社会運動」論である。「新しい社会運動」論が議論された背景にあるのは、産業社会からポスト産業社会への移行であり、高度経済成長から低成長への移行である。「新しい社会運動」の特徴は、社会問題の告発から抵抗へという段階を経ながら、運動がそこにとどまらず、説得・参加・自治への段階へと成熟していることである。また、政治権力の獲得を目的とするのではなく、新しい社会システムを構想することが求められている。

そういった意味では、市民活動は、その内容や意味において、「新しい社会運動」としての側面ももっていると考えられ、新しい社会を構想する市民の主体的な営為なのである。

したがって,市民活動は社会のありかたやシステムをめぐって問題を提起し、時には行政を批判する場合や、対抗的な政策を提案することもありうる。その意味で、市民活動は、安上がりな行政を補完するといった性質のものではありえず、行政の下請け機関ではけっ

 

 

 

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